• Vol.01
    • 2019.08.10

    はじまり

『 平田オリザ「新しい広場を作る-市民芸術概論綱要-」(岩波書店)
この本に出会い、私は本屋を始めようと決意しました。
何年か前から「福井に文化の拠点みたいなものが作れないかな。」そんな事を考えていました。
私自身は芸術関連の仕事をしていたわけでもなんでもありませんが、一個人として音楽や美術、舞台、芸能などに触れることが大好きで、「福井にもっといろんな文化に触れられる場所が増えるといいなぁ。」と漠然と思っていました。
イメージはロンドンのピカデリー広場やパリのバスチーユ広場のような、様々な人や文化が出会い交錯する場所 。
でも、個人の力でできることは限られています。

そんな時、この本に出会いました。
家庭と職場以外のサードプレイスの存在が注目されていますが、本書の著者も街のそこかしこに趣味や嗜好によって集まり、集合離散を繰り返す集団のようなものが社会の緩衝材として必要ではないかと説きます。かつては村それぞれに広場があり、そこで祭りをし、話し合い、踊ったように。

そうか、大きな広場でなくてもいいんだ。
職場のような拘束もなく、自由でいろいろな物や人に出会える場。
「本のある小さな広場を作ろう!」

本棚には時代や地域を超えて、あらゆる文化が集まっています。小さな文化の拠点として本屋はうってつけです。
やっと進むべき道が決まった瞬間でした。

 If many little people,
 in many little places,
 do many little things,
 they can change the face of the earth
  たくさんの小さな人々が
  たくさんの小さな場所で
  たくさんの小さなことを成す。
  それで世界の状況は変えられる。

これは、ある講習会で講師の方から教えていただいた言葉です。いろんな場所で、いろんな人が、いろんな広場を作れば、なにかが変わるかも!?

私も小さな本屋で、日々小さなことを積み重ねていけたらと思っています。
そして、この街に新しい小さな場所が増えていくことを願っています。』

以上は、2019年4月17日のブログからの引用。ちょっと気負った文章にオープン直前の緊張感を感じる。
 そしてオープンから3ヶ月。ありがたいことに様々なお客様が当店を訪ねてくださっている。お昼休みや仕事帰りに立ち寄って熱心に棚を眺めてくださる方、親子でベンチに腰かけて絵本を選ばれる方、プレゼント用の本選びに頭を悩ませる方。カフェスペースでは珈琲をのみながら本を読みふける方、勉強される学生さん、同好の仲間でおしゃべりを繰り広げられる方々。
 「この本、ずっと探してたんです!」「前に頂いた本、よかったわ。」お客様から頂戴するうれしい声と笑顔に心から幸せを感じる日々。でも、果たしてわおん書房は「文化を中心とする街の小さな広場」となりえているだろうか?答えが出るのは、まだまだ先のことになりそう。私にできるのは、日々、小さなことを丁寧に積み重ねるだけ。
それでも、福井には新たに小さな広場が誕生しつつある。それぞれの場所で、それぞれの形で。こうやって小さな場所が増えていったら、街は変化していくだろうか?どんなふうに?
そんなことを妄想しながら、今日も本屋の1日が始まる。